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東京地方裁判所 昭和43年(借チ)31号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

一、近い将来堅固建物の利用が一般化することが予想される場合には借地条件を変更するのが相当である。

二、賃借権の設定が、実質的には前契約と同一の条件で更新したと認められるような場合には、右契約の前後の事情を合せて事情変更の有無を決すべきである。

〔判決理由〕一、本件申立の趣旨及び理由は

(1) 申立人は昭和三四年一〇月一五日相手方から別紙目録記載の土地(以下本件土地という)を木造建物所有の目的で、存続期間を二〇年間と定めて賃借し、その契約に当り、申立人は相手方に対し、権利金として、昭和三四年八月二二日金一〇万円、同年一〇月二日金一二万円を支払つた。

(2) しかして、申立人は、本件土地に別紙目録(三)記載の建物を所有し、右建物で軸受部品を製作しているが、右工場のうち、平家建の部分はやや老朽化しているので、これを新しくし、また工場及び事務室のほか、食堂、休憩室等工員のための施設を備える必要があるので、三階建の建物が必要である。そこで、申立人は鉄骨シポレックス造、一部ブロック造の三階建の工場、事務所の建築を計画し、相手方に対し、前記借地契約を堅固な建物の所有を目的とするものに変更するよう申込んだが相手方はこれを承諾しない。

そこで、本件土地の近隣には、鉄骨モルタル塗三階建の建物や鉄骨スレート張りで高さ一二米以上の建物等の堅固建物も少くなく、このような建物と木造建物が密集しており、準防火地域、工業地域に指定されているので工場用建物としては、鉄骨造の堅固建物の築造を相当とする状況である。よつて前記借地契約を堅固な建物の所有を目的とするものに変更する裁判を求める。

というのである。

相手方の主張の要旨は、申立人は、前記契約後も、二階の増築を行つているので本件建物の改築をする必要はなく、また、本件土地附近は、前記契約当時と同様、町工場及び住宅が立ち並んでおり、これらは、木造或いは軽量鉄骨造の建物であり、前記契約後土地の利用状況には変化はなく、さらに、相手方居宅敷地は本件土地の西北西側に、隣接しているので、申立人が本件土地に三階建の物を築造すると、相手方居宅は昼過ぎまで日照を望めなくなり、採光、風通も阻害されることになるので、本件申立を認容するのは相当でないというのである。

二、本件資料によれば一の(1)記載の事実のほか、次のような事実を認めることができる。すなわち、本件土地は、間口二〇米、奥行19.2米の長方形の宅地で、北側は幅員7.2米の道路、東側は幅員三米の道路に接しており、都市計画上の施設としての工業地域、準防火地域、第二種容積地区に属している。近隣は、中小工場、住宅が密集しており、それらの建物の多くは木造の平家建又は二階建であるが、工場の中には、鉄骨造の二階建又は三階建、或いは階層に分れていないが、三階建以上の建物に相当するものも可成り見られる。

そこで、右のような利用状況から考えると、本件土地附近の土地においては、いまだ、鉄筋コンクリート造等の堅固建物の敷地としての利用が通常の利用立法であるとはいえないので、前記借地権設定後に附近の土地の利用状況の変化があつたとは認められない。しかし、本件土地附近にも見られるように、一般に、工場用建物では、その耐久化と防災上の見地から借地法上は堅固建物と解される重量鉄骨造の建物が漸次増加しつつあることから考え、工場地帯である本件土地附近も、申立人が計画している如き鉄骨シポレックス造、一部ブロック造三階建の建物の築造は相応しいものであると解され、近い将来にそのような利用方法が一般化するものと予想される。したがつて現在借地権を設定する場合は、右のような鉄骨造の堅固建物の所有を目的とするのを相当とする事情にあるものと認められる。

もつとも、右のような事情が、すべて前記借地契約締結後に生じたものであるとはいえないが、本件資料によれば、本件土地は、もと申立外吉田実が昭和一四年頃、相手方の先代亡須山倉吉から木造建物所有の目的で、存続期間を二〇年間と定めて賃借し、昭和二七年頃、申立人が右吉田から右の土地賃借権を譲受け、一方須山倉吉から本件土地を相続した相手方との間で、昭和三四年一〇月一五日あらためて前記借地契約を締結したものであつて、実質的には前契約と同一の条件で更新したものと認められるので、このような場合は、右契約の前後の事情を合わせて、堅固建物の所有を目的とするのを相当とする事情の変更があつたものと認めることができるものと解する。

そして、申立人に本件建物をその計画するような鉄骨造三階建の建物に改築する必要のあることは否定できない。相手方は、右計画建物が築造されることにより、相手方居宅の日照、採光、通風等が著しく阻害されると主張する。本件資料によれば、相手方居宅は平家建であり、その敷地は本件土地のほぼ西方に接しており、相手方居宅及び本件建物はいずれも境界線に接して建てられているため、現状でも、相手方居宅に対する東方からの日照、採光等は望めず、相手方居宅の構造も東方から日照等を得るようにはなつていない。したがつて相手方が前記計画建物を築造しても、相手方居宅の日照、採光、通風等を現状より以上に、著しく阻害することになるとは考えられない。これによつて、相手方がその居住条件が不良化するという感覚を抱くとしても、それは本件土地附近のような工業地域ではやむを得ないことであり、これは、後の財産上の給付の点で考慮すればよく、これをもつて、本件申立を認容するのを不相当とすべきであるとはいえない。その他にも、前記借地契約の目的を堅固な建物の所有を目的とするものに変更するのを不相当とすべき事情は認められないので、本件申立は後記の条件のもとに認容することとする。

三、そこで、本件申立を認容するについての附随処分の要否、内容等について検討する。

(1) 財産上の給付について。本件申立を認容することによつて生ずる当事者双方の利害の主要なものは、申立人の有する借地権価格の上昇と相手方の有する所有権の価格(底地価格)の低下であり、これは、相手方の底地価格の低下分が申立人に移転して借地権価格を上昇せしめるといつてよい。その移転する価格(価値)は、当事者間に本件借地関係が継続する限りは潜在的なものであるが、申立人がその借地権を譲渡せんとする場合、相手方がその土地を譲渡し、又はこれに低当権を設定する場合にはこれが顕在化する。その他の利害として、申立人の計画建物は工場用の特殊の建物であるので、買取請求権を行便された場合には、相手方は不必要な出捐を余儀なくされること、右計画建物の築造によつて相手方に居住環境が多少悪化するとの不満感を与えること等が財産上の給付によつて考慮されるべきである。

そこで、右の給付額について、鑑定委員会は、本件土地の更地価格を一m2当り金四万五、〇〇〇円と評価し、本件土地全部の更地価格の一一%に当る金三六八万一、八一〇円を相当とするとしている。前記認定のとおり、申立人は契約の更新に当り合計金二二万円の権利金を支払つているのが、その他には増築等を行つても、その承諾料等の金銭を支払つた事実は認められないこと及び前記認定の諸事情を考え、当裁判所は、右鑑定委員会の意見を採用し、本件申立を認容するにつき、金三六八万一、八〇〇円の財産上の給付を条件とすることとする。

(2) 賃料について。本件資料によれば、現行賃料は昭和四一年一月以降一箇月金七、七〇〇円であるが、本件申立を認容することによつて、本件借地関係が存続する限り生ずる利害は、申立人の本件土地のより有効な利用による収益の増加であり、相手方の土地所有権が賃料徴収権としての経済的機能しか有しなくなることを考えると、右の増加する収益の一部を賃料として相手方に還元し、その利害の調整を図るべきである。そこで、その金額については鑑定委員会の意見を採用し、一箇月金一万一、一〇〇円とする。

(3) 存続期間について。本件申立を認容する裁判が従前の存続期間にどのような影響を与えるかは見解が分れ、紛争が生ずる虞れがあるので、借地法第二条等の趣旨により、従前の存続期間を、借地契約の目的変更の効力が生じた時から三〇年と定める。 (福嶋登)

別紙

目録

(一) 土地

東京都大田区東糀谷一丁目二八番地

宅地 1,262.80m2(382坪)の内 743.80m2(225坪)

(二) 借地契約

(1) 種類及び目的右(一)の土地につき木造建物所有を目的とする賃借権

(2) 存続期間 昭和三四年一〇月一五日から二〇年間

(3) 現在の賃料 一箇月金七、七〇〇円(一坪当り金三五円)

(三) 建物

家屋番号 二五番

木造スレート葺二階建工場 一棟

床面積 一階 352.71m2(107坪)

二階 198.34m2(60坪)

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